詐欺師の鉄則


「名誉さえ手に入れれば金はいらない」
などという詐欺師は絶対にいない。
 詐欺師は人を騙す。
 もちろん詐欺師は嘘をつく。
 間違いなく全ての詐欺師は嘘つきだ。
 けど、嘘つきが詐欺師とは限らない。

例えば、不幸にも中年のおじさんが馴染みの居酒屋で同僚のビジネス論なんかに付き合わされていたとする。
 そしたらそこに見慣れない若い別嬪が入ってきたんだ。
 別嬪は中年のおじさんの視線の範囲内に座った。
 別嬪は友達相手にケラケラケラケラ笑って飲みはじめた。
 んな時、中年のおじさんは下心なんて大それた賭け値なしで、同僚の田中の話なんか話半分になる。
 中年のおじさんなんだぞ、別嬪をチラチラ盗み見るに決まってんだろ。
 けど、酒臭い息で帰宅すると、、
「飲みすぎてない?」
なんて聞く中年のオバサンである妻が聞くんだな、これが。
 日頃はおかえりもそこそこに、テレビ見てたりしてるくせによ。
 でも、おじさんの今晩の機嫌は上々だから、別段、腹も立たないけどね。
 だってね、さっきまで別嬪見ながらチビチビ酒飲んでたんだもんね。
 ほんでもって、チョット飲み過ぎてご機嫌なんだもんね。
 だけどさ、
「いゃぁー、別嬪があんまり笑うもんだからチョイト飲み過ぎちまった」
なんて妻には言わない。
「田中がミスってさぁー」
みたいに愚痴って、わざわざ顔しかめて見せたりしてね。
 間違っても、オシッコのついでに居酒屋のトイレの鏡に写った自分に向かって、
老け込むのにはまだ早い。連れ込むのにはもう遅い。」
などと思わず呟いてしまった自分に笑い掛けた事など、口が裂けても言わない。
 別嬪にしても似たようなもん。
 できちゃった婚で一ヵ月後入籍予定の新郎相手に、

今まで何人の彼氏と寝て、どいつのSEXが好きで、貴方のHは何番目かなんてことは、死んでも言わない。
 嘘でも、「貴方が一番いい」と言うに決まってる。
 新郎にしても、幾ら真実だからってそんな話は聞きたくねぇー、に決まってんだろ。
 それにしても、できちゃった婚は自然の摂理にかなった婚姻形態だよな。
 動物社会を見てたら、それが正解って感じだもの。
 野性的でイカしてる。
 話が横道にそれちまった。軌道修正するぜ。
 つまり、人間生きてりぁ結構嘘もつくもんなんだな。
 例の中年のおじさんの嘘つきの理由を考えてみる。
 妻を愛してるから。
 妻が怒るだろうから。
 妻に言うような内容じゃないから。
 面倒くさいから。
 いちいち説明できないから。
 とまぁ、おじさんなりの言い訳があっての嘘で、嘘というには他愛ない。
 別嬪にしてもしかり。
 未来の旦那のため。
 しいては自分の幸せのために嘘をついたに過ぎない。
 ところが詐欺師の嘘は、中年のおじさんや別嬪みたいなのとはチト違う。
「人間生きてりぁ結構嘘もつくもんだ」と言うような感覚の嘘とは種類が違う。
 間違っても、笑える嘘とか泣かせる嘘なんかつかない。

 詐欺師はすべて金のために嘘をつく。
 金のための嘘しかつかないと断言しても過言ではない。
 既に地位や名誉を手にしてる詐欺師でさえ、更なる金を求めて嘘をつくぞ。
 詐欺師が人を騙す行為には必ず金が絡んでるんだ。


 で、その金は最終的に詐欺師の利益に結びつくんだぜ。

 では詐欺師の鉄則を教えよう。
 すべては金のためである。